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アジア写真帳(杭州)−郭庄


アジア写真帳(杭州)

 浣池周辺の風景


 郭庄は1907年に杭州の商人、宋瑞甫氏により建てられた別荘ですが、その後郭氏の所有となり郭庄という名称で呼ばれるようになった庭園です。正式名称として汾陽別荘という名前もあります。
 この庭園は、本来、西湖に隣接するとともに浣池と鏡池という二つの池を取り囲む形で建物が建てられていたのですが、現在は鏡池に水がなく、往時の面影は西湖の近くと浣池周辺で見るだけです。上の写真は浣池周辺の風景です。
 郭庄を紹介するこのページでは、まず、浣池周辺の景から紹介します。


 両宜軒にある郭庄茶室からの浣池の風景です。
 こうした池の周りの建物配置などを見ると、蘇州の庭園に相通じるものを感じます。蘇州と杭州は地理的には近いのですが、蘇州では庭園文化が発達してるにもかかわらず、杭州にはそうした鑑賞レベルに耐えうる庭園がほとんど見当たらないことに、私には残念な思いがあります。
 そうしたなかで郭庄は、私が知る限りにおいては杭州で唯一、鑑賞に堪えうる庭園だと私は思います。ただし、その管理状況などを見ると寂しい限りであり、私としてはもともとはこうだったはずだという想像力を働かせて鑑賞しなければならない庭園でもあります。


 郭庄の入口です。もともとは個人の別荘ですから、それらしい雰囲気を漂わせています。


 郭庄は西湖の西側、楊公堤に面しています。茅家埠曲院風荷と接していますので、これらのスポットと組み合わせて観光すると効率的だと思います。


 さて郭庄は、門を入り短い回廊を進むと、すくに上の写真にある場所に着きます。四角形の空窓の間に円洞門(円形の門)が見える欄干付の回廊です。そこからの浣池の眺めは中国庭園らしい雰囲気を十分に窺わせます。


 上の写真が欄干付の回廊から、浣池越しに両宜軒を見たところです。本来、池面には蓮などの水生植物だけが見えるべきなのですが、この日はあいにく郭庄が杭州の蓮花芸術祭の会場として使用されていたため、不要な飾りがいくつも池面に広がっていて雰囲気をぶち壊しています。草の輪や蝶などのイルミネーションを外して、原形を想像しないといけません。それらさえなければ、広々とした池の周りに建物が配置されていてすっきりした印象になると思います。
 それにしても、郭庄のような庭園を展示会の会場にして雰囲気を壊してしまうところに、杭州における庭園文化のレベルの低さを感じてしまいます。


 欄干付の回廊から見える六角亭と景蘇閣です。景蘇閣の裏手が西湖になります。景蘇閣からは西湖が一望できるのですが、目の前に広がるのは蘇堤です。蘇堤の景色が広がるので、その名前がついたのだと考えられます。
 この上の写真を見ても郭庄の管理の悪さが目に付いてしまうのですが、六角亭の展望です。六角亭のような亭を庭園に造るときは、そこからの眺めが良いからその場所に建てるのです。ところが現在は、後ほど写真で見てもらいますが、六角亭の視界を遮るように木が植えられ視界がありません。もったいないことです。


 欄干付の回廊の裏側にある小庭園です。この庭園から四角形の空窓や円洞門を通して浣池を見ると窓や門が額縁になり、絵になる風景が広がるはずなのですが、この日は杭州の蓮花芸術祭の下手な飾りつけがあるために、それも楽しめません。


 本来は、こんな感じで浣池方向の景色が絵のように見えるように設計されているのです。


 欄干付の回廊をさらに前方へ進むと、そこは欄干のない回廊になっていくのですが、その回廊からの眺めも上の写真のように見事です。
 この景色は中国庭園によくある形式で、庭園の中央にある池が大海に続いているというイメージで、徐福の神仙蓬莱伝説(不老不死の薬を求めて航海に出るという名目で、秦の始皇帝の圧政から逃れ桃源郷を探したという伝説です。)にも通じる考え方に起因するものです。
 この浣池の水は西湖とつながっており、その西湖が銭塘江経由で海につながっているので、まさに郭庄の浣池は海につながっているのです。この庭園主であった郭氏は客人をこの別荘に招き、「今日は皆さんと桃源郷を探す旅に行きましょう」などと言いながら、宴席の場で酒を注いだのでしょう。


 六角亭につながる回廊です。扇型の空窓が印象的です。


 六角亭です。
 往時の郭庄でも、このようにテーブルと椅子が置かれ、庭を鑑賞できるようになっていたに違いありません。あるいは欄干に沿って腰かけるスペースがあっただけかもしれません。いずれにしても、ここに六角亭を設けた理由は、ここからの眺めを庭主が客人に見てもらいたいからにほかなりません。
 ところが、先にも書いた通り、ここ六角亭の前は木に覆われ、視界が効きません。本来は、すぐ先の太湖石だけが視界を少し遮るだけだったはずです。木を刈らないと、郭庄の良さが分からなくなってしまいます。

 

 六角亭の対岸にあるのはこの太湖石の岸です。木に覆われすぎていて太湖石の全貌は見えないものの、太湖石を削った階段のようなものが池に向かって伸びています。
 庭主がこの六角亭から見せたかった景色は、恐らくはこの太湖石とその周りの景だと思われますが、郭庄は何しろ手入れが悪くて、この太湖石の周りを見ても今はそんなに美というものが感じられません。


 六角亭から両宜軒に続く池沿いの道です。ここにも太湖石がいくつも使われています。
 郭庄と同じく、個人の別荘だった蘇州の芸圃網師園が郭庄に似たような庭園を持っていますので、これらの庭園と比較しながら郭庄を見ると、往年の郭庄の姿が想像できるようになるのです。


 六角亭の先にある賞心悦目亭という太湖石の上に築かれた建物です。この建物は浣池にも面していて、上の写真は浣池側から撮影したものですが、反対側は西湖に面しています。したがって、この亭に登れば、浣池ともう一つの鏡池の両方の池の周りの風景を楽しめるとともに、西湖に目を向ければ一直線に伸びる蘇堤が望めるという絶景の場所です。
 残念ながら、現在はこの賞心悦目亭への立ち入りは禁止されています。


 賞心悦目亭への登り口です。土台も階段も太湖石でできています。この太湖石は清代から伝わるものだとされています。



西湖と景蘇閣


 さて、郭庄のハイライトはこの円洞門から見える西湖の景でしょう。手前に景蘇閣があり、景蘇閣から西湖に面した平台(テラス)に出るところに、この円洞門があります。


 円洞門の先にテラスがあり、その前に西湖が広がります。季節が良いと西湖の岸辺には蓮の花が咲き、天気が良いと蘇堤もくっきりと見えます。
 私が行った日は、蓮の開花には少し早く、また天気もあまりはっきりしなかったので、もう一つ鮮明さには欠ける写真です。
 でも、西湖の美しさ、西湖の良さというものは、決して晴れている日だけ、蓮の花が咲いている時だけということではなく、どんな時でも美しいと私は思うのです。この思いは、実は下で紹介する詩の中で蘇東坡が抱いていた思いと一致するものです。


 昔の写真を取り出してみました。晴れているとこんなにもくっきりと西湖と蘇堤が見えるのです。蘇堤の橋までよく見えていますね。


 平台からの西湖の風景です。手前の蓮の葉が鮮やかで、西湖にかかる霧でそんなに遠くない蘇堤まで煙ったように見えます。これはこれで西湖らしい風景です。


 一艘の小舟が蘇堤の前を通り過ぎていきます。
 郭庄は観光客も少なく、また、この西湖の岸辺まで来ると車が走る楊公堤からも遠いので、本当に静かな西湖を楽しむことができます。平台におかれた椅子にでも座ってじっと西湖を見ていると、時間を忘れてしまいそうです。


 
平台から見た景蘇閣です。景蘇閣の中には入れませんが、この二階に登れば、さぞ美しい西湖の風景に出会えるのだろうと容易に想像できます。


 蘇堤から見た郭庄です。右側に景蘇閣と円洞門が見えます。左側の平屋建ての建物も郭庄の建物です。後ほど紹介します。



郭庄茶室


 両宜軒という建物には、現在、郭庄茶室という名の茶室が作られています。せっかくですから、郭庄に来たら、ここでお茶を楽しみながら郭庄の庭を楽しみましょう。郭庄そのものが混んでいないので、郭庄茶室もほとんどお客さんはいません。ゆったりと自分の時間を過ごすことができます。


 ところで、両宜軒という建物の名前は、蘇東坡の詠んだ詩の次の有名なフレーズから採られたものです。すなわち、こんな一節です。

  湖の水が輝く晴天の日が良い。 
  山々が霞んで朦朧とした風情も一興である。
  西湖を西施に例えるならば、
  淡い化粧の時も濃い化粧の時も、いずれ劣らず素晴らしい。


 「晴れても曇っていても、いずれ劣らず西湖は美しい」、両方ともよろしいということを蘇東坡は言っているわけです。


 郭庄茶室からの眺めです。現時点では、この眺めが郭庄の浣池周辺では最も中国庭園らしくて秀逸だと言えるかもしれません。

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鏡池周辺の景


 郭庄には、これまで紹介してきた浣池の他に、鏡池という池があります。
 上の写真は両宜軒と鏡池です。これでお分かりの通り、両宜軒というのは、浣池と鏡池の両方に接し、二つの池の眺めを楽しめる場所になっているわけです。両宜軒の名前の由来は先ほど紹介した蘇東坡の詩にあるのですが、この二つの池の景を楽しめるということにも掛けていたのではないかと想像できます。


 現在の鏡池の様子です。両宜軒から眺めたものです。両宜軒と回廊に囲まれた池です。鏡池という名前からもわかる通り、本来、この池は満々と水を湛え、両宜軒や回廊の姿が池に鏡のように映る景が自慢だったはずですが、このように水が少なくては鏡池という名が泣いてしまいます。このあたりにも、郭庄の管理にあたって、庭の良さを生かした手入れがなされていないことが現れています。
 正面に見える扇型の空窓を持つ亭を迎風映月亭といいます。


 迎風映月亭から見た回廊です。この辺りはかろうじて鏡池の名にふさわしく回廊が池に映りますが、本来はもっと水位が高くなくてはならないはずです。回廊の曲線なども、同じく個人の庭園だった蘇州の網師園芸圃といった庭園に比べても遜色ないのですが、池の水がいかにも少なすぎるのです。水位さえ高くすれば回廊が池を鏡にして水面に揺れ、もっと見栄えが良くなるはずです。もったいないことです。

 
 
 迎風映月亭の扇型の空窓です。空窓の向こうには小庭園があり、そこには太湖石が据えられた小気味よい庭が広がっています。扇型の空窓がちょうど額縁のような効果を出しています。
 迎風映月亭の名前の由来を考えてみると、この扇型の空窓で風通しを良くし(風を迎える)、この亭から鏡池に映る月を眺めて楽しむ(月を映す)場所だったことが容易に想像できます。ですから、鏡池は月が池面に揺れながら映るように満々と水をたたえていなければならないのです。

 
 
 迎風映月亭からの景色です。
 これが最もひどい鏡池の景色です。水位が高くて池の中に鉢植えの植物がなく、建物のすぐ手前まで水が満ち満ちている状態が本来の鏡池です。鉢植え植物がなく水位が高ければ、正面に見える両宜軒の姿も池に映えると思います。
 蘇州・網師園の大池の景にも通じる美しい庭園になるはずなのですが、わざわざ庭園の雰囲気をぶち壊している郭庄の管理状況を極めて残念に思います。

 
 
 
 鉢植えされていた蓮に花が咲いていました。綺麗な色と形をしています。


 蓮の花の寿命は3日間程度ですが、一つの蓮からいくつも茎が伸び次々と花が咲きます。上の写真で、左の花は恐らく今日が初日の花でしょう。右の崩れかけた蓮の花は開花して3日目か4日目の蓮の花だと思われます。

乗風邀月軒


 この郭庄は、中央に浣池のゾーン、北側に鏡池のゾーンがありますが、南側には乗風邀月軒のゾーンがあります。
 乗風邀月軒は西湖に面した平台の手前に建てられていて、上の写真の奥に平台と西湖があります。乗風邀月軒の邀月とは、月を招いて迎えるという意味です。鏡池の周りにあった迎風映月亭は、月が鏡池に揺れながら映る様子を楽しむ場所だったのに対して、乗風邀月軒は西湖の湖上に風に乗って月がやってきて湖面を照らす様子を楽しむ場所だったのではないかと考えられます。


 乗風邀月軒の前の平台からの西湖の眺めです。景蘇閣の平台もすぐ横に見えます。正面には西湖が広がっていますので、この西湖の湖上に輝く月を眺める場所がこの平台だったということになります。
 西湖を最大限に利用した庭園の設計だと思います。


 乗風邀月軒の裏手には、狭いのですけれども、小庭園があり、花や木が上品に植えられています。


 庭園の小路は、一周してもわずか3分程度しかかからない小規模なものです。しかしながら、その周囲には竹林や太湖石といった脇役たちが上手に配置されていて、郭庄の品の良さを感じさせてくれます。


 乗風邀月軒のゾーンと浣池のゾーンとを結ぶ回廊です。乗風邀月軒側から見たものです。この風景は、郭庄を訪れた客人たちが乗風邀月軒から浣池方面に戻るときに見る景色です。


 この長方形の空窓から浣池のゾーンが見える仕掛けになっていて、この眺めが素晴らしいのです。すなわち、乗風邀月軒から戻る客人たちをもう一度浣池を一周したくなるような気持ちにさせる効果があるのです。この絶妙な空窓の風景は、郭庄の完成度の高さを感じさせるものです。


 以上、郭庄を紹介してまいりましたが、手入れが悪い、庭園の心が理解できていないなど、郭庄の管理は良くないものの、それでも郭庄がかつてはいかに魅力的な庭園だったかは容易に想像できますし、現在の悪い管理下でも、杭州では唯一、観賞に耐えうる庭園であることは間違いありません。ぜひ時間を作って多くの人に鑑賞してもらいたい庭園です。

 上の写真は郭庄前の楊公堤にあるバス停です。バスで来れば市街からすぐですし、曲院風荷茅家埠とセットで歩いても良い観光スポットだと思います。

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