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蘇州の四大名園、滄浪亭|蘇州古典園林の魅力

(2010年5月1日以来)

蘇州の四大名園、滄浪亭SUZHOU

滄浪亭の概要 

蘇州の滄浪亭:入口の運河に架かる橋

 滄浪亭は、蘇州の四大名園の一つで、蘇州の中では最も古い庭園の一つです。唐末の時代に呉越広陵王であった銭元僚が造営したものを、北宋慶暦年間(11世紀中期)に詩人蘇舜欽が改築しています。蘇舜欽は官職を失ってから蘇州に住み着き、この地に魅かれ買い取ったと言われています。滄浪亭という名は、紀元前3世紀頃の楚の政治家、屈源の楚辞という詩から名づけたとされていますが、その屈源の楚辞の一部を紹介しましょう。
    滄浪之水清兮  滄浪の水 清ければ
    可以濯吾纓   以って、吾が纓(えい)を洗うべし。
    滄浪之水濁兮  滄浪の水 濁れば、
    可以濯吾足   以って、吾が足を洗うべし。

ここで、纓(えい)とは役人の冠の紐のことですが、「滄浪(このやりとりのあった川の名前)の水が澄んでいる時には冠のヒモを洗えば良いし、水が濁っている時には足を洗えば良い。何事も、世の流れに逆らわず臨機応変に対応するべき」という意味になります。ここから「滄浪」とは、世の流れに逆らわず臨機応変に対応するといった意味になります。

 蘇舜欽は自ら滄浪翁と号し、「滄浪亭記」を書き残したそうです。庭園も歴史がありますが、名前の由来も随分と歴史を遡るのですね。そんな歴史も考えながら、滄浪亭の入口に架かる橋を渡っていきましょう。

蘇州の滄浪亭:入口

 滄浪亭は蘇州の他の庭園に比較すると、全体としてあまり派手さがない庭園なのですが、むしろ自然ですっきりしていて、それでいて目立たないところに心憎い配慮がされていたりしていて、私はこの滄浪亭にいると落ち着きます。
 とにかく蘇州の中では最も古い庭園の一つですから、入口もそうした威厳を感じさせるものです。

蘇州の滄浪亭:入口付近の運河

 滄浪亭の入口前です。滄浪亭の入口前は運河になっていてのんびりした風情です。橋の右側が滄浪亭の入口です。橋では、蘇州の地元の人でしょうか、老若男女がくつろいでいる姿をいつも見かけます。

蘇州の滄浪亭:運河沿いの回廊

 かつての滄浪亭は、現存している滄浪亭の6倍以上の広さを有していたといわれています。
 滄浪亭の入口を入らずにさらに運河に沿って進んでいくと、運河が池のような姿に広がります。この部分は、かつての滄浪亭ではまさに池だったところで、この池を中心に庭園が南北に広がっていたことになります。かつての滄浪亭でも最も美しい景観が広がっていたところだと言われています。
 今は滄浪亭の敷地外からこうして外堀のように広がる運河と外堀に沿った回廊を見ることになりますが、かつての池に沿って回廊が続く美しい姿を想像することができます。

蘇州の滄浪亭:運河に沿った回廊

 運河沿いに続く回廊です。滄浪亭の特徴である白壁の回廊と漏窓(ガラス等の入っていない模様付きの窓)を楽しむことができます。また、黄石積みされた岸辺の情景にも美しいものがあります。



 滄浪亭の入口すぐの築山

蘇州の滄浪亭:築山

 かつての滄浪亭は、現存している滄浪亭の6倍以上の広さを有していたそうです。その頃は今の箱庭のような滄浪亭ではなく、例えば拙政園に見られるような自然が広がる園林だったと言われています。その後、所有者が変わり土地が分割されるなどの経緯を経て、今のような狭い滄浪亭になっています。したがって、現存している滄浪亭は当時の一部が再現されたに過ぎません。それでも十分に雰囲気のある古典園林なのですから、かつての滄浪亭のすべてが再現されたならば、さぞ素晴らしいだろうと想像してしまいます。

蘇州の滄浪亭:築山の頂上にある滄浪亭

 滄浪亭の入口を入ると、築山があり、その築山の上に滄浪亭という亭があります。この滄浪亭から園内を見渡すと、滄浪亭という庭園自体があまり広くはないことが感じられます。 かつての自然園林のような滄浪亭の面影が少し残っているとすれば、この築山付近だけです。この築山だけが自然を感じさせる場所で、この築山の周りを建物が囲み、その建物を回廊が結んでいます。

蘇州の滄浪亭:築山を歩く

 築山を歩いてみます。築山ですから、そんなに大きなものではありません。ただ、中国江南の庭園というのはどこもそうなのですが、歩きながら庭園を見ていると、角度によって様々な発見をさせられます。この滄浪亭の築山もそれで、築山を登る途中で、また、築山を歩いている途中で、ぜひ、周りを見渡したり立ち止まったり座ったりして、名園の雰囲気に浸ってください。

蘇州の滄浪亭:築山の歩道と滄浪亭

 庭園内は、蘇州市街の雑踏がうそのように森閑としています。世俗から隔離された世界のようです。蘇州の名園は、ゆっくりとじっくりと雰囲気に浸ると、その良さが分かると思います。駆け足で見て回るのではなく、ゆったりと歩き、時には腰掛け、周りを見渡し、雰囲気を味わうのです。駆け足で3つの庭園を見るのであれば、ゆっくりと2つの庭園を味わった方が良いと思います。
 正面に滄浪亭が見えます。

蘇州の滄浪亭:滄浪亭

 築山の上にある滄浪亭。滄浪亭の建物自体はそんなに大きなものではありませんが、四隅の屋根の跳ね上がりなど、優雅な造りです。それ以上に印象的なのが、この滄浪亭から見える風景で、それこそこの庭園での一つの魅力だと思います。すなわち、築山を囲むように作られている回廊の美しさと築山を構成する黄石の見事さです。

蘇州の滄浪亭:築山から見た回廊

 滄浪亭から見た回廊です。
 回廊とは屋根のある廊下を言いますが、中国庭園では一般的に、回廊はまっすぐに作りません。また、屋根に起伏をつけたりして変化をつけています。ここ滄浪亭の回廊も曲線的に起伏をつけて、妖しく作られており、爬山廊と呼ばれています。

 


 滄浪亭の見どころ、漏窓

蘇州の滄浪亭:回廊

 また、回廊で見逃してはならないのは、漏窓(ろうそう)です。
 漏窓とは窓枠の内部に模様を組んだもので、ガラスとかは入っていません。一般的に白壁の中に作られていて、もちろん装飾という意味合いが強いのですが、ガラスがないので採光と通風の機能を持っています。
 漏窓は江南庭園の中でも、特に蘇州において発達したと言われています。なかでも、ここ滄浪亭の漏窓は特に見事だと言われています。それもそのはず、往年の6分の1の広さになった滄浪亭を再現するにあたって、回廊と漏窓の復元に精魂を傾けたからなのです。
 滄浪亭の回廊と漏窓については、こちらのページで詳しく紹介しています。

蘇州の滄浪亭:漏窓

 回廊の漏窓です。漏窓の模様については、滄浪亭の中に二つとして同じものはありません。と言うか、蘇州の漏窓には二つとして同じものはないそうです。いろいろなデザインがあって、こんなところにも中国江南庭園の魅力があるのです。
 並んでいる漏窓を見ていると、確かに、通風と採光効果もありますね。

蘇州の滄浪亭:ざくろの漏窓

 同じように内部に模様の配された窓ですが、これは漏窓というよりも、模様つきの空窓と言ったほうが良いと思います。空窓とは、窓枠を四角ではなく、円形や扇形や六角形や瓢箪型や木の葉形などに切り取った窓を言います。通常は中に模様を配することはなく、採光と通風に加えて壁の向こう側を切り取って見せる機能もあります。
 この滄浪亭の空窓は、空窓の中の模様も凝っていて、一つ一つ見ていると時間がたつのを忘れてしまいます。

蘇州の滄浪亭:建物内の花窓

 窓の話が続きますが、この窓は枠が木枠になっていて、中に模様が入っています。前に机と椅子が見えますので、ここは回廊ではなく、建物の中です。したがって、窓にはガラスが入っていて風は通しません。いわゆる花窓と言うものです。(漏窓も花窓の一種と言ってよいのかもしれません。)
 白壁に六角形の窓枠を作って中に模様を入れるという凝ったつくりの窓です。この花窓越しに外の庭園が見えるようになっていて、借景という技法が使われています。

蘇州の滄浪亭:竹林と庭園

 現存している滄浪亭は、入口を入ってすぐの築山周辺と、その奥にある建物群とに分けて考えることができます。この建物群の間も様々な漏窓を持つ回廊によってつながれていますが、外には竹などの木々が植えられ美しい庭園となっています。



 明道堂、五百名賢詞などの建物

蘇州の滄浪亭:聞妙香室

 滄浪亭の建物についても、少し紹介しましょう。
 まず、聞妙香室の内部です。聞妙香室は滄浪亭のある築山のすぐ脇にある小さい建物ですが、入口や窓など開口部が多いため、大変明るい構造です。何か意味深な名前なので、いわれがあるのでしょうが、現地で確認するのを忘れてしまいました。

蘇州の滄浪亭:明道堂

 滄浪亭の主庁とも言える明道堂です。
 ここも、大きな花窓を活用した明るい造りになっています。柱の少ない広い建物が、採光に優れた構造によって、ますます広々として見えます。

蘇州の滄浪亭:明道堂の前の竹林

 明道堂から竹林を見たところです。
 滄浪亭では、竹林も随所に効果的に使われています。最も見事な竹林は、ここ明道堂の前でしょう。

蘇州の滄浪亭:竹林と明道堂


 一つ前の写真とは逆に、竹林から明道堂を見たところです。
 この日は、朝の開門と同時に入ったので、まばゆいばかりの朝日が竹林の隙間から注ぎ、とりわけ美しい情景でした。

蘇州の滄浪亭:回廊と竹林


 明道堂付近の回廊です。
 竹林が回廊に脇に配されています。また、正面には6角形の花窓があって、明るい構造となっています。こういう感じが滄浪亭の雰囲気です。



蘇州の滄浪亭:清香館

 滄浪亭には清香館という建物があります。
 清香館の脇に立っているキンモクセイの香りが強く漂うのでこの名が付いたのだと思いますが、このキンモクセイの香りで、同じ滄浪亭の中にありながら、また違った趣きのある場所になっています。この清香館には、上の写真の通り繊細な彫刻を施した中国家具が多数展示されています。相当に年季の入った家具が多く、そのコレクションに驚かされます。

蘇州の滄浪亭:円洞門

 清香館からさらに奥に入っていきます。
 中国の庭園には壁に穴を開けた入口がよくあります。これを洞門といいます。回廊や建物などによって仕切られた庭園を結びつける役割をします。また、洞門を通して見せる景色は、額の中に入れた絵画のように計算しつくされたものです。この洞門からの景色を見て、客人は次の庭の美しさや変化を期待するわけです。
 因みに、上の写真のように丸く穴を開けたものを円洞門といいます。洞門の形には、他にもひょうたん型や花瓶形などいろいろあって、庭園に変化をつけています。

蘇州の滄浪亭:五百名賢詞


 洞門の先には、五百名賢詞があります。五百名賢詞とは、春秋時代から清の時代まで、蘇州の二千年の歴史の中で、功が大きかった594人を称えて石刻を壁にはめ込んだ建物です。

蘇州の滄浪亭:五百名賢詞の内部

 上の写真のように594人が並べられています。
 呉越戦争で活躍した伍子胥もその一人として名前を連ねていると言うことを聞きましたが、沢山の人名から探すには時間がありませんでした。

蘇州の滄浪亭:回廊と運河

 さて、滄浪亭の入口の方に戻ってきました。
 滄浪亭の入口(大門)は、上でも書いたとおり堀に面しています。この堀に面して、写真の通り回廊が巡らされています。微妙な曲線を描く回廊は堀の風景にも溶け込み、滄浪亭から立ち去りがたい気持ちを起こさせます。

 滄浪亭は、留園や拙政園などと比較すると派手さはないものの、歴史と風格を感じさせる印象深い名園です。完全な形で再現された庭園ではないだけに観光客も少なく、静かに蘇州古典園林の魅力に浸ることができます。中国庭園の素晴らしさをしみじみと感じる名園です。
 なお、滄浪亭の回廊と漏窓については、こちらのページで詳しく紹介しています。


 滄浪亭入口に架かる橋を渡り運河の対面には、滄浪亭の入口と同じような形をした門があります。冒頭に記載したとおり、かつての滄浪亭は今の6倍以上の面積を有していて、現在の入口はかつての滄浪亭の中心部に近いところに位置していました。すなわち、上の写真の先も、かつては滄浪亭の一部を構成していた庭園だったということです。
 立ち入り禁止になっているので分かりませんが、ここにも庭園の跡が残っているのであれば、ぜひ再現する工事を実施して、往年の滄浪亭の姿を見せて欲しいものです。

この続きは滄浪亭〔2〕(滄浪亭の回廊と漏窓)へ

関連ページ

滄浪亭〔1〕蘇州の四大名園、滄浪亭
滄浪亭〔2〕滄浪亭の回廊と漏窓

まず、こちらからご覧ください
蘇州旅行指南(蘇州旅行の楽しみ方)
蘇州古典園林を見る前に
蘇州古典園林(中国庭園)の楽しみ方